「家族信託vs遺言書:どちらが適しているか?」

相続コラム

2023.01.01

認知症対策と資産管理を考える

相続対策について計画を立てる際、多くの人が家族信託と遺言書のどちらを選ぶべきか疑問を抱いています。それぞれ異なる特徴があり、個人の状況やニーズに応じて選択する必要があります。また、これらを組み合わせて相続対策することも可能です。この記事では、家族信託と遺言書の特徴、選択のポイントについて詳しく説明します。

それぞれの特徴

家族信託の概要

家族信託は、財産を所有する本人(委託者)と、その財産の管理や運用を任された受託者との間で結ばれる契約です。この契約により、受託者は受益者(本人やその家族)のために財産を管理、運用します。以下に、家族信託の主な特徴を示します。

・認知症や疾病への備え

認知症等で判断能力を失った場合、不動産の売却や銀行預金の引出しが制限されます。しかし、事前に家族信託を設定しておけば、受託者が本人のために不動産の売却や預金の引出しができます。

・障害がある家族のための管理

家族信託は、家族内に認知症や障害のある人がいる場合に特に有効です。財産を所有する人(委託者)が亡くなった後も、受託者がその家族のために財産を管理運用して、将来の安定した生活を保障します。

・遺言書の代替

家族信託契約に含めた財産は、最終的に誰に引き継ぎたいか定められます。これにより、遺言書と同様の役割を果たします。

・信託しなかった財産

家族信託契約に含めなかった財産や、信託契約後に本人(委託者)が新たに取得した財産については、相続時に遺言書がないと遺産分割協議により分配されます。一般的な例としては、本人が新たに親や兄弟の相続で得た金銭などが挙げられます。

遺言書の概要

遺言書は、自身の財産について死後にどのように分配するか指示する文書です。以下に、遺言書の主な特徴を示します。

・遺言書の柔軟性

遺言書は比較的柔軟で、自身の死後の財産の分配方法の指定や、葬儀や遺留分についての希望を記すことができます。

・効力発生のタイミング

遺言書の効力は、遺言者の死後に発生します。つまり、遺言書を作成したとしても、生前には影響がありません。

どちらを選ぶべきか?または両方を活用するべきか?

家族信託は、認知症や疾患リスクがある人や、家族の中に判断能力のない人がいる場合に、信頼できる受託者によって資産を柔軟に管理できる方法です。ただし、信託契約に記載されていない財産や新たに取得した財産は、家族信託の対象外となり、相続時には遺産分割協議で分配するため、トラブルが生じる可能性もあります。一方、遺言書は死後の財産の分配を指定できますが、生前に効果を発揮しないため認知症等の対策にはなりません。

家族信託と遺言書の組み合わせ

生前の認知症対策に家族信託を活用し、信託契約に含まれなかった財産については遺言書で承継先を指定するなど、家族信託と遺言書の両方を組み合わせて使用することも可能です。これにより、効果的な資産管理と希望の承継を実現できます。

事例:田中夫婦の相続計画:家族信託と遺言書

70代の田中夫婦は、将来を考えて相続対策をすることにしました。彼らは、自宅不動産と退職金2千万円と預貯金を主な財産として持っています。

家族信託の設定

田中夫婦は、長女を受託者として退職金2千万円と自宅不動産を家族信託に設定しました。自宅が夫婦の施設入居等で空き家になった場合には、受託者によって売却され、その収益は夫婦の生活費や医療費に充てられます。同時に、退職金2千万円も信託によって受託者が管理し、必要に応じて夫婦の生活費や支出に充てられます。家族信託により、夫婦は老後の安定した生活を確保するための一手段を得ました。

遺言書の作成

さらに、田中夫婦は貯金や絵画など家族信託に含めなかった財産についての遺言書も作成しました。遺言書では、貯金を子供たちに均等に分けることや、特別な思い入れのある絵画を特定の親戚に譲ることを指定しています。

この例では、家族信託と遺言書をうまく組み合わせることで、老後の生活の安定と資産の適切な分配を実現しました。個々の家庭の状況や希望に応じて、法的な対策を選択・組み合わせることができます。

専門家のアドバイスを受ける重要性

遺言書や家族信託などの法的な対策は、個人や家族にとって複雑で重要な問題であり、誤った方法は将来の安定に影響を及ぼす可能性があります。法的な知識や経験のある司法書士や弁護士等の専門家は、個別の状況や将来の希望に合わせて最適なアドバイスと手続きのサポートを行うことができます。

まとめ

家族信託と遺言書は、将来の計画を立てるための有効な方法です。最終的に、家族信託、遺言書、または両方を選ぶかどうかは、個々の状況と将来の希望に応じて決定されるべきです。ご自身に合った最適な選択をするために、専門家のサポートを活用して資産と家族の将来に備え、認知症対策と資金管理に関する不安を軽減しましょう。

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木村 洋佑

この記事を書いた人

木村 洋佑 Kimura Yousuke

1984年、広島市生まれ。
2007年、駒澤大学法学部を卒業後、検察事務官として東京地方検察庁に入庁。
2012年、東京高等検察庁を最後に検察庁を退職し、2013年には司法書士の資格を取得。
2014年、資格研修終了後、広島市内の司法書士事務所に就職。
4年半の勤務を経て、
2018年7月、司法書士木村事務所を開設。

現在、広島市など広島県全域について、相続や遺言、信託に関するお困り事を中心に解決しています。

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