未来への優しい一歩:障害のある子の相続対策と家族信託

相続コラム

2023.01.21

はじめに

障害のある子を持つ親にとって、将来の不安はつきものです。特に自分が高齢になった後に対する不安は尚更です。この記事では、障害がある子を持つ親の相続対策に焦点を当て、家族信託の仕組みやポイントについて具体的に探ります。

障害のある子への心配事

障害のある子をもつ親の不安は、子の将来や社会との関わり方など個々の状況によって異なりますが、ここでは親の老後や相続と絡めた一例を挙げます。

・誰が子をケアするのか

親が高齢になり、子がケアを必要とする際、誰が子を適切にケアするかという問題が浮上します。

・経済的な不安

老後においても、経済的な面での不安が残ります。子が経済的に独立できない場合、親が退職した後や亡くなった後の経済的なサポートが不透明である可能性があります。

・兄弟姉妹への負担

兄弟姉妹に対して、障害のある兄弟姉妹をケアする負担がかかることが親の心配材料となります。

事前対策しないまま、親が高齢になったら

親が高齢になり足腰が悪くなると、子に関する必要な手続きを行ったり、病院などに付き添いをしたりすることが難しくなります。さらに、親が認知症等で判断能力が不十分になった場合、親自身はもちろん、子どもの生活についても大きな影響があります。

事前対策しないまま、親に相続が発生したら

親が亡くなると、その遺産は相続人全員の遺産分割協議で分けます。障害がある子は、判断能力の程度により遺産分割協議に参加できません。その場合、家庭裁判所が成年後見人を選任して、成年後見人が子に代わって遺産分割協議に参加します。成年後見人を誰にするかは家庭裁判所が決定しますが、親族などの候補者を立てることもできます。しかし、候補者が選ばれない場合や候補者がいない場合、弁護士や司法書士等の専門家が成年後見人に選ばれます。専門家が成年後見人になると、他人が財産管理に関与することになり、専門家への報酬も発生します。成年後見人は一度選任されると、基本的には生涯続くことになります。

なお、相続人が障害のある子のみでも注意が必要です。この場合、相続により遺産を一度に手にするため、適切に管理ができず無駄遣いしてしまったり、詐欺などに合ったりする可能性もあります。

家族信託で親の老後・相続対策

障害がある子の親の老後・相続において、事前の対策は欠かせません。家族信託は、障害がある子の親にとって非常に有効な手段です。家族信託することで、家庭裁判所の成年後見人を選ばずに老後・相続対策が可能です。

家族信託の仕組み

家族信託とは、自身の財産の一部または全部(信託財産)を信頼できる人(受託者)に預けて、自身又は指定した人(受益者)のために管理運用してもらう契約です。例えば、親の財産を親戚(受託者)に預けて、障害がある子(受益者)のために管理運用してもらうことができます。受託者は、信託契約に明示された条件に基づいて信託財産を管理運用するため、法的な契約に基づいて適切に子のために使用されます。

柔軟な家族信託

家族信託は比較的自由に契約内容を定めることができます。例えば、下記のような設計が可能です。

・長期的な信託の期間:受託者が業務をスタートするタイミングや家族信託が満了する時期について定めることができるため、親が足腰が悪くなった時から受託者の管理をスタートさせ、子が亡くなるまで信託契約を続けることもできます。

・予備の受託者の設定:家族信託の期間が長期化することが予想される場合、受託者の健康問題や生活環境に変化がある可能性があります。信託契約の中で予備の受託者を定めておけば、最初の受託者が高齢で業務を行うことが難しくなっても、予備の受託者が交代して業務を遂行することができます。

・最終的な財産の承継先

家族信託では、信託財産の最終的な承継先について定めることができます。例えば、家族信託が終了する時期を子の死亡に設定した場合、子の死亡後に残っていた信託財産を兄弟姉妹に承継させることや、施設などに寄付することも可能です。

家族信託においては上記の他、報酬の定めや信託財産の使用方法の定めなど比較的柔軟なルールを定められる点、ご自身で財産管理を任せる受託者を選んでおくことができる点が成年後見制度との大きな違いです。

遺言書による失敗

相続対策というと“遺言書”が真っ先に思い浮かぶかと思います。障害がある子への承継において遺言書では不十分です。遺言書では、相続時に一度に遺産が承継されてしまうため、財産管理が難しい子にとっては無駄遣いやトラブルに巻き込まれる可能性が高いです。また、遺言書は親が亡くなった後に効力が発生するため、親の判断能力低下など生前のトラブルへの対応ができません。

さいごに

障害のある子どもへの遺産相続は繊細な問題であり、賢明な計画が求められます。この記事で紹介した対策を参考にして、将来にわたり子どもが安心して生活できるような状況を整えていきましょう。障害のある子どもとその家族が、安心して未来に向けて歩む手助けになれば幸いです。あなたの家族の将来を考え、今できる対策を検討してみませんか?

木村 洋佑

この記事を書いた人

木村 洋佑 Kimura Yousuke

1984年、広島市生まれ。
2007年、駒澤大学法学部を卒業後、検察事務官として東京地方検察庁に入庁。
2012年、東京高等検察庁を最後に検察庁を退職し、2013年には司法書士の資格を取得。
2014年、資格研修終了後、広島市内の司法書士事務所に就職。
4年半の勤務を経て、
2018年7月、司法書士木村事務所を開設。

現在、広島市など広島県全域について、相続や遺言、信託に関するお困り事を中心に解決しています。

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