子どものいない夫婦の相続における遺言書の役割は?司法書士が解説

相続コラム

2023.08.14

1.はじめに

子どものいない夫婦の一方の相続は、故人の兄弟の相続となり、兄弟は別家庭として生活し疎遠となることも多いことから、一般的な相続と比べて紛争が生じやすい傾向にあります。

亡くなった人の兄弟姉妹が手続きに関与すれば、意見の対立が起きる場合や、同世代の方が相続することとなるため、その人の判断能力(認知症等)にも問題が生じやすくなります。

その場合には、残された配偶者に大きな負担がかかります。

この記事では、子どもがいない夫婦の一方に相続があった場合において、遺言書が果たす重要な役割について説明します。

2.子どもがいない夫婦の法定相続人について

子どものいない夫婦の一方が亡くなった場合、その相続人は、生存する配偶者と故人の両親になります。

しかし、両親の方が世代が上となり、両親もすでに亡くなっている場合には、故人の兄弟姉妹が相続人になります。

相続するルールは、次のとおりとなります。

 ① 配偶者は常に相続人。
 ② 子がいれば、子が第一順位の相続人。
 ③ 子がいなければ、両親が第二順位の相続人。
 ④ 両親が先に亡くなっていれば、兄弟が第三順位の相続人。


そして、故人よりも先に相続人が亡くなっている場合には、「代襲相続」といい、「相続人の相続人」が故人の相続人となります。

イメージで言うと、孫や甥姪が該当することになります。

そして、これらの相続人のすべてが存在しない場合には、その相続財産は国庫に引き継がれます。

3.遺言書がない場合:遺産分割協議と相続トラブル

亡くなった人が遺言書を残さなかった場合、相続人間で話し合う(遺産分割協議)ことによって、遺産をどのように分けるか決めます。

子どものいない夫婦の一方に相続が発生すると、相続の際に生じやすい問題もあります。

以下には、よくあるケースを上げてみます。

(1)意見が対立する

子どものいない夫婦の一方が亡くなると、配偶者と亡くなった人の兄弟姉妹や甥姪(代襲相続)が相続人になるケースがほとんどです。

この場合には、相続人の人数も多くなり、別家庭として独立している兄弟姉妹は疎遠であることも多く、ましてや甥姪ともなると、10年以上会っていないなんて場合もよくあります。

こういった相続となる場合、遺産分割協議では意見が対立しやすくなります。

意見が対立すれば、遺された財産に自宅があった場合、他の相続人の相続分から、自宅を配偶者に遺すことができず、売却せざるを得ないこともあります。

(2)認知症等で判断能力がない

子どものいない夫婦が高齢で亡くなると、相続人となる兄弟姉妹も高齢となるのが通常です。

そして、その相続人が認知症等で判断能力がない場合には、そのまま遺産分割協議は進められません。

この場合には、その相続人のために、家庭裁判所で成年後見人を選任してもらい、その成年後見人を交えて遺産分割協議を行うこととなります。

成年後見人を選任する手続には、通常数か月かかってしまうため、フワフワした状況が続き、遺産分割協議が完了させられません。

この間は、配偶者が住むことには差し支えありませんが、売却や賃貸といった処分をすることもできなくなります。

また、成年後見人は被後見人(判断能力のない兄弟)の財産を守る役割を果たすため、その兄弟の相続分が減るような遺産分割には同意ができないため、通常であれば「いいよ。」と印鑑を押してくれるところが、成年後見人が選任されている状況では、柔軟な遺産分割が行えないこともあります。

4.とある事例のご紹介

以下では、とある家庭の多数の相続人が絡んだ相続の事例を紹介します。

① 子どものいない夫婦のご主人が亡くなりましたが、遺言書は残されていませんでした。

相続手続きでは、まず話し合いに参加する相続人を確定するため、多くの戸籍を集める必要があります。

戸籍収集には3~4ヶ月を要し、相続人は配偶者、亡くなった夫の姉妹4人、亡兄弟の子7人の合計12人でした。

② また、相続人の1人が認知症を患っており、この相続人のために、成年後見人を選任することとなりました。

③ 遺産分割協議では、数十年関わりのない甥姪から相続分に相当する遺産を求める申し出があり、話がまとまるまでに数か月要しました。

④ そして、他の相続人からの相続分の要求に応えるため、亡夫が気に入っていたセカンドハウスをも急いで売却することとなりました。

これらの手続は、高齢の奥様が一手に担わなければならなかったため、精神的・金銭的・体力的にも大きな負担を強いられ、かなりのストレスを抱えていらっしゃいました。

子どもがいない夫婦の一方に相続があった場合には、戸籍の収集から始まり、環境が落ち着くまでに、相当な時間が掛かることが多いのです。

では、どう対策をしていれば、こんなトラブルの発生を防ぐことができたのでしょうか。

5.遺言書の役割と必要性

これらの問題を解決するためには、遺言書の作成が非常に役立ちます。

遺言書は、遺産の承継先をあらかじめ決められるので、亡くなった後に遺産分割協議をせずに相続手続きを進められます。

つまり、他の相続人の関与が必要なく、印鑑ももらう必要もなくなります。

子どもがいない夫婦にとっては、遺言書は相続トラブルを避ける最善の方法とも言えます。

そして、遺言書は、作成するときに元気でなければ、作成することができません。

この点も重要ですので、覚えておいて下さい。

6.遺留分との関係

また、一定の相続人には最低の遺産割合が保障されています(遺留分)が、兄弟姉妹にこの遺留分はありません。

子どものいない夫婦が、例えば互いに相続させるといった内容の遺言書を残した場合、兄弟姉妹は遺留分を持たないため、遺言書の内容に沿った承継が実現します。

兄弟姉妹やその甥姪は相続人ではありますが、故人が遺言書を遺していれば、要求を受けたとしても、応える必要はなく、そして何らの協力を求めることも必要ありません。

つまり、遺言書通りに、簡便に相続手続を終わらせることができるのです。

7.専門家の協力の重要性

そして、遺言書を作成する際には、適切な知識と経験が欠かせません。

遺言書を残すことは大切ですが、日本の遺言書は要式行為であり、形式や内容に誤りがあると遺言書の全部又は一部が無効となったりすることがあります。

こうなってしまうと、折角作った遺言書が、実際に活用する際に使えなかったなんて場合も出てくることとなります。

こうしたリスクを回避するためには、専門家のアドバイスが非常に重要です。

司法書士や弁護士などの専門家は、遺言書の作成や実際に相続人に分配がなされるまでの手続に精通しており、適切なアドバイスを行うことができます。

さらに、死後に遺言執行者として、遺言書の内容を実現することや、不動産の相続登記、預貯金の解約手続きなども代理で行うことも可能です。

先ほどの事例で、もしご主人が奥様にすべてを相続させる旨の遺言書を遺されており、そしてその遺言執行者に司法書士や弁護士などの専門家を選んでいれば、財産はすべて奥様に引き継がれ、そしてその煩雑な手続のすべては、専門家が担うことができたのです。

こうして見ると、遺言書の有無で年単位の時間と相当な費用が変わってくることを感じていただけると思います。

8.おわりに

ここまで、子供がいらっしゃらないご夫婦に焦点を当ててお話をして参りました。

この記事を読んでいただいている方々は、ご自身の相続について、考えられていますか。

遺産分割協議による相続人の対立や相続人の判断能力による問題は、しっかりとした計画と対策を立てることで未然に防ぐことができます。

まずは第一段階として、遺言書の作成をご検討されてはいかがでしょうか。

将来の自分と家族の安心のため、そして大切な遺産が適切に扱われることを確保するためにも、お元気なうちに、済ませておくことをお勧めします。

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木村 洋佑

この記事を書いた人

木村 洋佑 Kimura Yousuke

1984年、広島市生まれ。
2007年、駒澤大学法学部を卒業後、検察事務官として東京地方検察庁に入庁。
2012年、東京高等検察庁を最後に検察庁を退職し、2013年には司法書士の資格を取得。
2014年、資格研修終了後、広島市内の司法書士事務所に就職。
4年半の勤務を経て、
2018年7月、司法書士木村事務所を開設。

現在、広島市など広島県全域について、相続や遺言、信託に関するお困り事を中心に解決しています。

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