遺言書と付言事項:感謝と願いを伝える書き方と成功事例を司法書士が解説

相続コラム

2023.09.13

1.遺言書の役割と付言事項の重要性

遺言書がない場合の相続手続では、相続人間の協議で遺産の分配方法を決めるため、紛争が生じることが多々あります。

これは、相続人それぞれのお考えもありますし、これまでの相続人間での関係性でもあります。

こういった相続トラブルを未然に防ぐには、遺言書の作成が不可欠と言えます。

そして、遺言書の中に付言事項を記載しておくことで、感情的になりがちな話し合いの場において、故人の気持ちを伝え、各相続人が各々の思いを馳せる良い機会ともなります。

遺言書の中でも、付言事項は法的な強制力は持ちません。

しかし、遺族が故人の意志や感謝の気持ちを理解するために重要な役割を果たします。

2.付言事項の書き方とポイント

以下では、遺言の中でも、付言事項の書き方とポイントについて詳しく説明します。

(1)遺言書の最後に書く

遺言書の最後に「付言」という見出しを付けることで、遺言事項と区別します。

見出しの下から感謝や願いを簡潔に記載します。

どうしてこの分配を願うに至ったか、そしてこれまでの感謝の気持ちなどを記載していくこととなります。

(2)感情と冷静さのバランス

愛情に基づくメッセージは遺族の心に響きますが、同時に冷静な言葉で誤解やトラブルを避ける配慮も必要です。

愚痴や否定的な言葉は、家族の悲しみを深め、相続紛争になることもあるので記載しないよう心掛けましょう。

(3)明確な表現

遺言事項と付言事項の内容が矛盾しないように注意しましょう。

矛盾があると、遺族の混乱や遺言書の無効化を生じさせることがあります。

曖昧な表現は避けて明確であり、そして簡潔に書くことが重要です。

(4)感謝の理由を具体的に書く

感謝の気持ちを伝える際は、根拠やどのような支えがあったかを具体的に挙げることで、感謝の意味が伝わりやすくなります。

遺された方がどのように読むか、想像しながら書くと良いかもしれません。

(5)未来への願いを書く

家族の絆を強調して、幸せな未来を願う言葉を加えることで、遺族同士の協力と理解を促進できます。

先に挙げた分配の理由や、紛争に至って欲しくない等の内容を加えておくと良いかも知れません。

3.付言事項による成功事例

付言事項は、遺産相続時のトラブルを未然に防ぐ効果があります。

以下には、その成功事例と付言事項の例文を紹介します。

成功事例1:住宅購入資金と相続におけるトラブル回避

ある方は、生前に長女に住宅購入資金を贈与していたため、次女にも同額の金銭を遺言書で相続させることにしました。

遺言書の付言事項に、それぞれの理由を明確に記述することで、姉妹間のトラブルを未然に防ぐことを期待しています。

~例文~

長女にはマンションを購入する際の資金を贈与しました。

不公平がないように、次女にも同額の遺産を相続させることにしました。

私は二人の娘を平等に愛しており、この遺言が争いの元とならないことを強く願っています。

姉妹仲良く、それぞれの家族と幸せな未来を築いてください。

成功事例2:疎遠になった子の遺留分侵害額請求を防ぐ付言事項

ある方は、遺言書で再婚相手に全ての遺産を相続することにしました。

一方、以前の結婚で生まれた子とは長い間疎遠になっており、子から再婚相手への遺留分請求を避けるために、付言事項を追加しました。


~例文~

私がここまで人生を楽しく豊かに過ごせたのも、長い間支えてくれた妻のおかげです。

感謝の気持ちと、高齢の妻が安心して生活できるように、この遺言書を残します。

争いのない相続が実現することを心から願っています。

子[名前]については、どうか遺留分の請求を行わないようお願いします。

成功事例3:希望のお別れを叶える葬儀・埋葬の付言事項

ある方は、葬儀と埋葬に特別な希望があったため、遺言書の付言事項に残しました。

その願いは遺族によって実現されました。

~例文~

私は遺言書で最期の願いを残します。

私の葬儀は、悲しむのではなく、明るく笑顔で送り出してほしいと願っています。

私の好きな○○の曲を流し、皆でお酒を飲みながら思い出話をして笑い合って欲しいです。

また、埋葬については、海が見えるところで、穏やかに眠りたいです。

希望の別れを実現してくれることを切に願っています。

成功事例4:事業の承継と家族理解の促進

ある家族経営者は、特定の子に事業を承継させることを遺言書で残しました。

他の家族も事業に関与していたため、家族全員の理解を求めるために、付言事項を追加しました。

~例文~
私は長男[名前]に事業を承継させることを決意しました。

彼の情熱と努力のおかげで、店舗を増やすことができ、経営が安定したためです。

家族全員が私の願いを理解して協力し合い、会社がさらに成長することを祈っています。

4.専門家のアドバイスで正確に想いを残す

自分で付言事項を書く際には注意が必要です。

付言事項には法的な強制力はありませんが、分配方法が記された遺言事項と矛盾がある場合は、遺言書の内容が無効になることや相続トラブルに発展することもあります。

専門家である司法書士や弁護士のアドバイスを活用することで、大切な想いを正確に残すことができます。

5.まとめ

遺言書の付言事項は、遺族への感謝や希望を具体的に伝える部分です。

ただし、家族に気持ちを伝える方法は、遺言書だけではありません。

感謝の気持ちは、日々家族に伝えておくことも重要なことです。

また、遺産をどのように分けるか、元気なうちに家族と協議をしておくといった方法も有効です。

遺された家族としては、本人の口から語られることが一番信用できるとも言えるからです。

付言事項では、正確で感情が込められた内容にすることで、遺族の理解や絆が強まり相続トラブルを防ぐこともできます。

大切な人へ感謝や願いをしっかりと伝えるため、遺言書を作成する際は、付言事項のことも意識しておくことをお勧めします。

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木村 洋佑

この記事を書いた人

木村 洋佑 Kimura Yousuke

1984年、広島市生まれ。
2007年、駒澤大学法学部を卒業後、検察事務官として東京地方検察庁に入庁。
2012年、東京高等検察庁を最後に検察庁を退職し、2013年には司法書士の資格を取得。
2014年、資格研修終了後、広島市内の司法書士事務所に就職。
4年半の勤務を経て、
2018年7月、司法書士木村事務所を開設。

現在、広島市など広島県全域について、相続や遺言、信託に関するお困り事を中心に解決しています。

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