相続の現実:遺言書の効果と具体的手続きを知って、スムーズな相続を!について、司法書士が解説

相続コラム

2024.03.22

1.はじめに

親や家族の財産を相続する際、遺言書の有無は手続きの進行に大きな影響を与えます。

本記事では、遺言書がある場合の相続手続きに焦点を当て、相続開始後に必要となる具体的な手続きとポイントについて解説します。

2.遺言書の有無で手続きが大きく変わる

故人が遺言書を遺してくれていた場合、相続手続きはとても簡略化されます。

例えば、相続手続では、故人の出生から死亡までの戸籍が必要となり、必要となる戸籍が膨大になりがちです。

ご自身で収集する場合には、この負担も大きいものです。

しかし、遺言が作成されていた場合には、必要となる戸籍も少なくなり、遺された家族の負担がかなり軽減されます。

また、遺言書には財産分配、遺言執行者の指定などが含まれ、法的な要件が整っていれば、遺言書通りに承継していくこととなります。

したがって、通常相続人間で必要となる話し合い(遺産分割協議)も必要なくなり、相続人同士でお金に関する話し合いをする必要もなくなります。

遺言書がない場合には、故人の財産は法定相続人全員の遺産分割協議により承継先が決まるため、ここを契機として、相続トラブルに発展する可能性が高まります。

3.遺言執行者とは?

遺言書には通常、遺言執行者を指定する内容が含まれます。

遺言執行者は、死後に遺言書を実行する責任を負い、円滑かつ公正に相続手続きを進める役割を果たします。

遺言執行者が指定されていると、通常相続人全員が署名捺印して手続を進めなければならないところが、遺言執行者一人で手続を完結させることができます。

相続人自身が遺言執行者がなる場合も多いですが、専門職である司法書士や弁護士が遺言執行者になることで、中立的な立場で、遺言の内容を着実に実現させることができます。

相続人間で話し合いをする場合、お金に関する問題がもちろん含まれますから、一旦決まった内容が、印鑑を押すタイミングで覆されたり、感情が入って、再度の話し合いとなることも多くあります。

しかし、遺言執行者に第三者が指定されていれば、話し合った結果を実現する人が粛々と中立的な立場で手続を進めますので、その内容を覆されること少なくなります。

4.遺言書がある場合の相続手続きの進め方

財産の種類によって変わることも多いですが、実際の手続の進め方は、次のとおりです。

(1)預金の相続

遺言書に預金に関する具体的な指示がある場合、その指示に従って手続きを進めることになります。

遺言書がある場合、遺言書、故人・相続人の戸籍、通帳やキャッシュカード、遺言執行者の印鑑証明書の提出を求められます。

窓口に赴くのは、遺言執行者一人で差し支えありませんので、相続人の負担も少ないと思います。

遺言執行者には、相続人が指定されていたとしても、当該相続人が第三者に依頼することもできますので、遺言執行者自身のご負担を軽くすることもできます。

(2)遺言執行者の行う手順

遺言執行者がいる場合は、下記の流れで預金の解約手続きを行います。

(1)遺言書の確認

遺言執行者は遺言書を確認し、預金に関する具体的な指示があるかを確認します。

遺言書には口座情報や分配方法の指示が明記されていることがあります。

(2)銀行との連絡

遺言執行者は遺言書に書かれた金融機関と連絡を取ります。

直接金融機関に出向くこともできますが、金融機関により必要書類が異なるため、事前に手続き方法について電話やHPで確認しておくとスムーズです。

(3)相続手続きの進行

金融機関に必要書類を提出してから数週間程度で、預金が解約され指定の口座に資金が振り込まれます。

(3)不動産の相続登記手続き

遺言書で不動産の承継先が指示されていた場合、相続登記手続きを行うこととなります。

相続登記は令和6年4月から義務化されるため、相続が発生したら、忘れずに登記手続きを行いましょう。

遺言書がある場合の必要書類は、
 遺言書

 故人及び相続する人の戸籍

 故人及び相続する人の住民票または戸籍附票

 不動産評価額が分かる書類(固定資産納税通知書・課税明細書)などです。

なお、遺言書で不動産を相続する場合、不動産を相続する方ご自身でも、指定を受けた遺言執行者でも登記手続きを進めることができます。

5.よくある質問

Q 遺言書はどこに保管されていることが多いですか?

A 遺言書は安全かつ見つけやすい場所に保管されることが一般的です。

銀行や家の金庫、または司法書士や弁護士などの専門職(遺言執行者)に預けることもよくあります。

公証役場では公正証書遺言の有無を、法務局では自筆証書遺言の有無(保管申出をしていた場合)を確認することも可能です。

Q 自宅で自筆証書遺言を発見しました、注意すべき点はありますか?

A 法務局の保管制度を利用していない自筆証書遺言は、“検認”という家庭裁判所の手続きをしないと、その遺言書は相続手続きに利用できません。

検認とは遺言書の存在を確認して、将来の偽造を防止するための手続きです。

検認が完了すると、家庭裁判所から検認済証明書が発行され、金融機関での相続手続や不動産の相続登記手続きで使用することができます。

なお、遺言書に封がしてある場合には、絶対に検認前に開封しないようにしてください。

もし開封すると、5万円以下の過料を受けることもありますので、注意してください。

Q 相続人全員が遺言書の内容に納得していません、遺言書と異なる遺産分割はできますか?

A 相続人全員の同意があれば、遺言書と異なる遺産分割は可能です。

その場合は、遺産分割協議書で分割内容をしっかりと記載しましょう。

ただし、次の場合には、相続人全員の同意があっても、遺言書と異なる分割ができませんので注意してください。

・遺言書により財産を承継する第三者(受遺者)がいる場合(受遺者も遺産分割に同意していれば、遺言書と異なる分割が可能)

・遺言書で遺産分割が禁止されている場合(遺言書では一定期間分割を禁止することができる)

Q 自分が遺言執行者になっていることが判明しました。どのように手続きを進めればいいですか?

A 遺言執行者は下記の流れで手続きを行う必要があります。

法律で定められた手続きのため、漏れがないよう注意してください。

ご不安な場合には、司法書士や弁護士などの専門職にご相談ください。

手続の流れは、次のとおりです。

(1)相続人の確認: 故人の出生~死亡までの戸籍を収集して相続人を確定させます。

(2)通知: 遺言執行者に就任した旨と遺言の内容を相続人に通知します。

(3)遺産目録の作成: 遺言書の内容に基づき、財産目録を作成して相続人に提出します。

(4)承継手続きの進行: 遺言書に基づき、預貯金や不動産などの承継手続きを進めます。

(5)報告: 全ての手続きが完了したら、相続人に手続きの完了を報告します。

6.おわりに

遺言書が存在する場合、ない場合と比べて、相続手続きがスムーズに進むことが多くなります。

この意味では、遺言書を作成しておくことは、相続人に対する配慮とも言うことができます。

ただし、遺言書の作成に当たっては、十分な計画と法律への理解が必要です。

本記事が、初めて相続手続きに取り組む方々にとって、遺言書の重要性や有益性を理解するための一助となれば幸いです。

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木村 洋佑

この記事を書いた人

木村 洋佑 Kimura Yousuke

1984年、広島市生まれ。
2007年、駒澤大学法学部を卒業後、検察事務官として東京地方検察庁に入庁。
2012年、東京高等検察庁を最後に検察庁を退職し、2013年には司法書士の資格を取得。
2014年、資格研修終了後、広島市内の司法書士事務所に就職。
4年半の勤務を経て、
2018年7月、司法書士木村事務所を開設。

現在、広島市など広島県全域について、相続や遺言、信託に関するお困り事を中心に解決しています。

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